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山口地方裁判所 昭和31年(ワ)59号 判決

判   決

原告

講堂

右代表者清算人

松永美貫

右訴訟代理人弁護士

御園生忠男

被告

海宝寺

右代表者代表役員

石原勇仙

(ほか四名)

右被告訴訟代理人弁護士

英一法

右当事者間の頭書の事件につき当裁判所は次のとおり判決する。

主文

原告に対し、

一、被告光本顕次、藤井周助、貞弘秀雄、徳永サダコは各自別紙第一目録一ないし一〇記載の不動産につき、

(1)  山口地方法務局防府出張所昭和二三年二月七日受付(一ないし八の不動産の受付番号は三七六号、九、一〇の不動産の受付番号は三八七号)共有権保存登記手続をせよ。

(2)  同出張所不動産登記薄表題部に、「共有者被告四名」とあるのを、「所有者原告」と更正することにつき承諾をせよ。

二、被告藤井周助は同目録二記載の不動産につき同出張所昭和二三年五月二七日受付第一九二〇号原因同年五月二四日持分売買なる所有権移転登記及び同目録八記載の不動産につき同出張所同年五月二七日受付第一九一八号原因同年五月二四日共有物分割なる所有権移転登記の各抹消登記手続をせよ。

三、被告貞弘秀雄は同目録三記載の不動産につき同出張所同年五月二七日受付等一九二一号原因同年五月二四日持分売買なる所有権移転登記及び同目録六記載の不動産につき同出張所同年五月二七日受付第一九一六号原因同年五月二四日共有物分割なる所有権移転登記手続をせよ。

四、被告徳永サダコは同目録の不動産につき同出張所同年五月二七日受付第一九二二号原因同年五月二四日持分売買なる所有権移転登記及び同目録七記載の不動産につき同出張所同年五月二七日受付第一九一七号原因同年五月二四日共有物分割なる所有権移転登記の各抹消登記手続をせよ。

五、被告光本顕次は、

(1)  同目録五記載の不動産につき同出張所昭和二三年五月二七日受付第一九一四号原因同年五月二四日持分売買なる所有権移転登記及び同目録九記載の不動産につき同出張所同年五月二七日受付第一九一九号原因同年五月二四日共有物分割なる所有権取得登記、

(2)  同目録一一記載の不動産につき同出張所昭和二五年一二月一四日受付第七〇五八号所有権保存登記、

の各抹消登記手続をせよ。

(3)  右(2)の不動産につき同出張所不動産登記簿の表題部に、「所有者被告光本顕次」とあるのを、「所有者原告」と更正することにつき承諾をせよ。

六、被告海宝寺は、

(1)  同目録一記載の不動産につき同出張所昭和二五年一二月八日受付第六九八六号原因同年一一月二〇日寄附、同目録二記載の不動産につき同出張所同年一二月一一日受付第七〇一二号原因同年一二月一〇日寄附、同目録記載四の不動産につき同じく第七〇〇七号原因右に同じ、同目録記載五の不動産につき同じく第七〇一一号原因右に同じ、同目録記載七の不動産につき同じく第七〇〇七号原因右に同じ、同目録記載八の不動産につき同じく第七〇一二号原因右に同じ、同目録記載九の不動産につき同じく第七〇一一号原因右に同じ、同目録三及び六記載の不動産につき同出張所同年同月一二日受付第七〇一八号原因右に同じ、同目録一〇記載の不動産につき同じく第七〇二五号原因同年同月一二日寄附、同目録一一記載の不動産につき同出張所同年同月一四日受付第七〇五九号原因同年同月同日寄附、取得者いずれも訴外海宝寺(被告海宝寺の前身たる宗教法人令により設立された宗教法人)なる各所有権移転登記、

(2)  同目録一及び一一記載の不動産につき同出張所昭和三〇年三月八日受付等一二三四号原因昭和二七年七月二一日承継、同目録二ないし一〇記載の不動産につき昭和三〇年三月八日受付第一二三三号原因右に同じ、なる各所有権移転登記、

の各抹消登記手続をなし、且つ同目録一一記載の家屋を明渡せ

七、原告の被告光本顕次、貞弘秀雄、藤井周助、徳永サダコに対するその余の請求を棄却する。

八、訴訟費用は被告等の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は主文一、(1)二、ないし四、五、(1)(2)六及び八項同旨の判決並びに被告四名に対し、「別紙第一目録一ないし一〇記載の不動産につき、山口県三田尻税務署昭和二三年一日六日受付、原因誤謬訂正、所有者原告とあるのを右被告四名の共有と訂正する旨の土地台帳登録株抹消手続をせよ。」との判決を、被告光本顕次に対し、「同目録一一記載の不動産につき同出張所昭和二五年一二月一二日受付同被告を所有者とする旨の家屋台帳登録の抹消登録手続をせよ。」との判決を求め、請求の原因として、

一、原告は宗教団体法(昭和一四年法律第七七号、以下単に法という)第三五条にいわゆる「仏堂明細帳に登録さらるる仏堂」にして、別紙第一目録記載の不動産を所有し、同第二目録記載の不動産を後記日時に買収されるまで所有し大正三年以来訴外芦樵寺代表役員藤村正念を受持僧侶(管理人)と定めていたところ、昭和九年同寺代表役員が松永義貫になると共に同人が受持僧侶に就任したが、その後宗教団体法(以下単に法という。)の施行により同法三五条同法施行令(以下単に施行令という。)第四一条により昭和一七年三月三一日の経過と共に解散し、同令第四三条により松永義貫がその清算人となり、現に清算中のものである。以下の次第で原告は民訴法第四六条にいわゆる法人に非ざる財団にして管理人の定めあるものに該当するものである。

二、しかるに右第一目録記載の不動産には左の如き登記及び登録手続がほしいままに経由されている。

(一)  被告光本顕次、藤井周助、貞弘秀雄、徳永サダコ(以下上記四名を被告四名という。)は同目録第一ないし一〇記載の不動産につき、

(1)  昭和二三年一月六日山口県三田尻税務署に対し、右不動産の土地台帳上の所有者名義人が原告となつているのを被告四名の共有名義に誤謬訂正すべき旨の申告をなし、その旨の登録手続を経由した。

(2)  同年二月七日山口地方法務局防府出張所に対し、右のとおり被告四名の共有として保存登記申請をなし以て請求趣旨記載の共有権保存登記手続を経由した。

(二)  同年五月二七日同出張所に対し、

(1)  被告藤井周助は同目録二記載の不動産につき、

(2)  被告貞弘秀雄は同目録三記載の不動産につき、

(3)  被告徳永サダコは同目録四記載の不動産につき、

(4)  被告光本顕次は同目録記載五の不動産につき、

いずれも右被告四名から持分売買により、

(5)  被告貞弘秀雄は同目録六記載の不動産につき、

(6)  被告徳永サダコは同目録七記載の不動産につき、

(7)  被告藤井周助は同目録八記載の不動産につき、

(8)  被告光本顕次は同目録九記載の不動産につき、

いずれも共有分割により、

(9)  訴外伊藤チヨは同目録一〇記載の不動産につき右被告四名から持分売買により、

それぞれ請求趣旨記載の各所有権移転登記手続を経由した。

(三)  被告光本顕次は同目録一一記載の未登録不動産につき、同年一二月一二日同出張所に対し右不動産の所有者を同被告とする旨の家屋台帳登録手続をなし、同月一四日同出張所受付請求趣旨記載の所有権保存登記手続を経由した。

(四)  訴外海宝寺は昭和二〇年勅令第七一九号宗教法人令により昭和二五年一〇二六日設立された宗教法人(以下訴外海宝寺という。)であるが、

(1)  同目録一記載の不動産につき昭和二五年一二月八日、原因被告四名から、

(2)  同目録二及び八記載の不動産につき同年同月一一日、被告藤井から、

(3)  同目録三及び六記載の不動産につき同年同月一二日、原因被告貞弘から、

(4)  同目録四及び七記載の不動産につき同年同月一一日、原因被告徳永から、

(5)  同目録五及び九記載の不動産つき同年同月同日、同じく一一記載の不動産につき同年同月一四日、原因被告光本から、

(6)  同目録一〇記載の不動産につき同年同月一二日、原因訴外伊藤チヨから、

いずれも寄附とする、請求趣旨記載の所有権移転登記手続を経由した。

(五)  被告海宝寺は、昭和二六年法律第一二六号附則第五項に則り昭和二七年七月二一日設立された宗教法人であるが、右設立と同時に同附則第一八項により訴外海宝寺は解散し、その権利義務を承継した。そして右承継を原因として、同目録一ないし一一記載の不動産につき昭和三〇年三月八日請求趣旨記載の所有権移転登記手続を経由した。

以上の次第で右登記並びに登録は原因を欠く無効のものであるから、原告は所有権に基き被告等に対し請求趣旨記載の如く、その抹消登記手続を求める。

三、別紙第二目録記載の不動産(農地)は昭和二三年二月二日農地改革により国に買収され、右買収代金は金六、六〇二円〇四銭であつた。被告光本は法律上の原因なくして国から右支払を受け以て右同額の利得を受け、これがために原告に同額の損失を及ぼした。よつて同被告に対し右金員の返還を求める。

四、被告海宝寺は別紙第一目録一一記載の不動産を何等正当の権限なくして占有している。よつて同被告に対しこれが明渡を求める。

と述べ、

被告の本案前の答弁一、の事実中

(一)につき、被告光本が管理人ないし清算人であることは否認する。同被告は単なる世話人に過ぎない。

(二)につき、被告ら主張の寺院設立認可申請をしたが却下されたことは認める。右認可申請において原告管理人及び設立されるべき教会の予定主管者が松永義貫とされている事実は法第三五条第一項施行令第三八条の規定と相俟つて、同人が原告の管理人ないし清算人であることの証左である。

(三)及び(四)につき、被告ら主張の風聞のあつたことは不知。被告四名は原告の清算人たる松永義貫に秘して、かかる登録及び登記をなし以て原告の財産を横領せんとしたのであるが、発覚したのである。

(五)につき、清算人でない被告光本のなした清算手続によつて、原告の清算が結了しないこというまでもない。

同答弁四、の事実につき、松永義貫は被告光本に対し、原告の清算手続を委任したことはない。

と述べ、

証拠(省略)

被告訴訟代理人は、「本件訴を却下する。」との判決を求め、本案前の答弁として、

一、(一) 原告は昭和一七年三月三一日法第三五条施行令第四一条により解散し、右規定により当時の総代(管理人)訴外徳永芳正が清算人となつた。その後清算人となつた訴外亡伊藤延木の後を襲つて昭和二一年夏被告光本顕次が清算人となつた。

(二) ところで被告四名は同人らの祖先が明治初年原告設立に力を尽したこと、設立以来交替でその総代(管理人)を勤めて来たこと等の深い関係があるところから、清算結了により原告を消滅させてしまうことを惜しみ、幸い祖先が原告設立以前に現在原告の堂宇の中に安置している薬師如来を安置していた海宝寺(明治四年廃寺)を再現することにより講堂の存続という目的をとげようと考え、施行令第三八条に則り主管者を松永義貫として県知事に対し法人教会設立認可の申請をしたが、昭和一七年二月二七日右申請は却下された。

(三) その後清算を結了しないまま終戦となり、世上未登記の土地は国が買収の上開拓団体に開放するという風聞が伝わつたが、原告は法人格を有しないため登記をすることができないので、被告四名相謀り一先づ右買収を免れる手段として昭和二三年二月七日別紙第一目録一ないし一〇記載の土地につき請求原因二、(一)(1)(2)記載のとおり登録並びに登記手続を経由した。

(四) 然るに更にその頃、共有名義になつている山林は開拓団体に開放するため国が買収するとの風聞が伝わつたので再びこれを免れる手段として、同年五月二七日同目録二ないし一〇記載の山林につき請求原因二、(二)(1)ないし(9)記載の所有権移転登記手続を経由した。

(五) その後被告四名は前記宗教法人令により原告の前記財産を以て寺院の設立ができることを知り、昭和二五年一〇月二六日同令により訴外海宝寺(宗教法人、主管者石原勇仙)を設立し同年一二月さきに一時的に共有又は個人有名義としておいた同目録一ないし一〇記載の不動産を寄附の形式により請求原因二、(四)(1)ないし(6)のとおり訴外海宝寺に対し所有権移転登記手続をなし、又同目録一一記載の家屋については、原告が法人でないため保存登記ができず、従つてこれを原告から訴外海宝寺へ寄附する方法がとれないので、請求原因二、(三)のとおり一且これを被告光本の個人所有名義となした上、請求原因二、(四)記載のとおり同年同月一四日訴外海宝寺に対し前同様所有権移転登記手続を経由した。

以上の次第により被告光本は原告の清算を結了したから、原告に既に当事者能力を有しない。

二、仮りに然らずとしも、松永義貫は原告の清算人ではない。同人は原告の年一回の仏事に雇われる僧侶に過ぎない。仮りに清算人であつたとしても同人は清算人たる地位を放棄した。

三、仮りに松永義貫が清算人であるとしても同人は被告光本に対し清算事務を委任し、これに基き同被告が前記清算を結了したものである。

四、仮りに然らずしても、原告は法第三五条第一項施行令第四一条第四三条第二九第二項により、その財産を国庫に帰属せしめられて清算を結了し当事者能力を喪失した。

以上の次第で本訴は不適法として却下されるべきものである。

本案につき、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、別紙第一目録記載の不動産につき請求原因二記載の登記及び登録の存在すること及び同三記載の被告光本が同第二目録記載の農地の買収代金六、六〇二円〇四銭を受領したことはいずれも認めるが、右登録及び登記手続並びに金員受領をなした事情は本案前の主張に際し述べたとおり適法である。

証拠(省略)

理由

一、原告が法第三五条にいわゆる「仏堂明細帳に登録せらるる仏堂」であり、且つ同条及び施行第四一条により昭和一七年三月三一日の経過と共に解散したことはいずれも被告の明らかに争わないところである。

(証拠)を綜合して考察すれば、

(一)  明治初年原告の肩書地に存在し臨済宗本山京都東福寺の末寺であつた海宝寺(以下旧海宝寺という。)が廃寺となり同寺の所有に属していた財産(不動産は一部建物の増築があるほか、別紙第一、第二目録記載の不動産とほぼ同じ。)は当時の住職訴外海原宝助(後の仁山和尚)の所有に帰したが、その後間もなく被告四名の祖先その他数名の者らが海原宝助と相談の上同宗派に属する宇部市中村訴外宗隣寺から、本山末寺台帳に名籍が残存するのみで実体のなくなつていた「講堂」なる仏堂の名籍を原告肩書地に移籍し来り、これに海原宝助から旧海宝寺財産の寄附を受け、その旨県の仏堂明細帳に登録し本山に届出でた結果、本山においては原告に対し末寺台帳上「等外甲地」なる寺格を付与し、ここに原告が設立される至つたこと、

(二)  原告は始め海原宝助の主管するところであつたが同人没後は宗隣寺住職が受持僧侶(受持僧侶とは住職のいない仏堂につき対内的にはこれを兼務主管し対外的にはこれを代表する他の僧侶をいう。)となつたこと、大正三年に至り地理的理由から右受授僧侶は宗隣寺住職から訴外芦樵寺住職に変更され、以来同寺住職藤村正念が受持僧侶をしていたが、同人は大正九年死亡し、同寺住職松永義貫がこれに代り、以来前記解散を経て現在に至つたこと、

(三)  被告四名の祖先は前述の如く原告設立に功績があつた関係で代々交替で原告の総代として原告経営に関し受持僧侶を助け、殊に受持僧侶が月に一度位しか来ない関係上、事実上これに代り原告の財産管理行為の大部分をなし来つたこと、而して総代は大正五年から同八年まで徳永豊一(被告徳永サダコの夫芳正の父)、その後昭和二〇年秋までその子芳正、その後昭和二一年七月まで訴外伊藤延木、その後現在まで被告光本顕次がそれぞれこれを勤めて来たこと、

を認めることができる。(中略)他に右認定を左右するに足る証拠はない。

右認定によつて考えるに、原告の解散により松永義貫がその清算人となつたものであり(施行令第四三条第四一条第三九条第二項民法第七三条第七四条)、被告光本顕次はこれを補佐する地位を有するに過ぎないことが明らかである。

被告等主張の松永義貫が右地位を放棄した事実並びに被告光本顕次が原告清算人松永義貫から施行令第二九条第一項に基く処分行為につき代理権を付与されたことを認めるに足る証拠はない。

従つて仮りに被告光本顕次が原告の清算人又は清算人代理人として原告の清算事務を結了したとしても右清算行為は原告に対し無効である。

被告は、原告は法第三五条第一項施行令第四一条第四三条第二九条第二項によりその財産が国庫に帰属し清算結了となつたと主張するが、右事実もこれを認めるに足る証拠がない。

以上の次第で原告は民訴法第四六条にいわゆる法人に非ざる財団にして管理人の定めあるものに該当し、その当事者能力及び松永義貫の代表資格には何ら欠くるところがないものと認めることができる。

二、よつて進んで本案につき判断する。

別紙第一目録記載の不動産につき請求原因二記載の各登記及び登録手続が経由されていることは当事者間に争がなく、同目録一ないし一〇記載の不動産につき請求原因二、(一)(1)(2)の登録及び登記がなさるまで、同目録一一記載の不動産につき請求原因二、(三)の登録及び登記がなされるまで、右各不動産がいずれも原告の所有であつたことは被告等の明らかに争わないところである。

そこで先づ登記抹消請求について考える。

被告等は本件登記はこれに符合する実体上の登記原因を有しないけれども、右は本案前の答弁(三)ないし(五)記載の次第で、被告四名相談の上被告光本顕次の原告を清算する方法としてなされたものであるから有効であると主張する。

しかし、被告光本顕次が右清算に関する権限を有しないことは前段に説示したとおりである。

従つて右登記はすべて原因を欠き無効であるから、原告が所有権に基き被告等に対しこれを抹消手続を求めることは正当である。(被告海宝寺が昭和二六年法律第一二六号附則第五項に則り昭和二七年七月二一日設立された宗教法人であり、右設立と同時に同附則第一八項により訴外海宝寺が解散し、その権利義務を被告海宝寺が承継したことは被告の明らかに争わないところであるから、訴外海宝寺に対してなされた前記移転登記の抹消請求を被告海宝寺に対して求めることは正当である。)

次ぎに請求原因二、(一)(1)記載の被告四名に対する共有登録抹消請求及び同二、(三)前段記載の被告光本顕次に対する登録抹消請求について考察すべきところ、不動産登記法の改正及び土地台帳法、家屋台帳法の廃止により、土地及び家屋台帳制度が廃止され、従前の台帳上の記載は不動産登記簿の表題部に、土地の表示又は建物の表示として登記されることとなつたから、右請求はこれら表示の登記の抹消請求として考察する。

前示土地の表示の登記及び建物の表示の登記は前記被告等がほしいままになした登録に基いてなされたものであるけれども、所有者の氏名が原告とされるべきところを前記被告等とされている点を除いては、右不動産の客観的状況に符合していることは弁論の全趣旨に徴し認め得るところである。

土地建物の表示に関する登記については所有者に申請義務が課せられていると共に、登記官吏も職権でこれをなす権限を有する。

従つて右登記うち所有者の氏名の部分を除くその他の部分については、いやしくもそれが実在する以上右のように登載されるべきものであるから、原告は右部分の抹消を求める権利を有しないものというべきである。

次ぎに右表題部の所有者の氏名の抹消につき考えるに、不動産登記法上表題部の所有の氏名を直接抹消することを申請することは規定がないので許されないが、同法第八一条の七第一項によると、原告は表題部の所有者を自己名義に更正する手続をすることができることになつている。

右更正登記をするには原告において右被告等の承諾書を添附しなければならないとされているが、もしこの承諾が任意に得られないときは、これを命ずる判決を以てこれに代えることができるものと解すべきである。

以上の次第で前記表示の登記の抹消請求は右更正登記につき被告等の承諾を求める限度において正当として認容し(これは申立の範囲と考えられる)、その余を失当として棄却することとする。

別紙第二目録記載の不動産がもと原告の所有であつたことは被告光本顕次の明らかに争わないところであり、昭和二三年右物件が国に買収され同被告が右買収代金六、〇二円〇四銭を受領したことは当事者間に争がない。しかし、前記証拠によると同被告は総代として清算人に代り財産を管理する権限を有していたもので、右金員もこの権限に基き受領し保管していることが認められる。

以上の次第で右金員の受領を以て不当利得と見ることはできないから、右請求は棄却すべきものである。

最後に家屋明渡請求について考えるに、

被告海宝寺が別紙第一目録一一記載の家屋を占有していることは同被告の明らかに争わないところであるところ、同被告は右占有を正当ならしむべき権原につき何ら主張立証しないから、同被告に対する右屋明渡請求は正当として認容すべきである。

よつて訴訟費用の負担につき民訴訟法第九二条但書を適用し主文のように判決する。

山口地方裁判所第一部

裁判長裁判官 竹 村  寿

裁判官 井野口  勤

裁判官 石 井  恒

第一、第二目録(省略)

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